研究者、町工場を訪問する
東北大学大学院農学研究科准教授 青木優和さん(右) 有限会社サトウ化成 佐藤憲司代表取締役(左)
町工場はどのように研究者の課題を解決できるのだろう。今回、昨年の研究現場のものづくりニーズと町工場の技術をマッチングする事業、新分野ジョイント事業に参加し、町工場でものづくりの相談にのってもらえることを知った東北大学大学院、農学研究科准教授の青木優和さんと町工場との打ち合わせに密着した。青木さんの専門は海洋生態学。東日本大震災で環境が変わってしまった海中の藻場や、そこに生息する生物の生態を調査する研究を行っている。潜水しての観測や、新たな現場実験系を組んだりすることも多く、観測用具やサンプリングに使う道具を自作することもたびたびあった。町工場を訪問するのは初めてだ。
コーティング技術を海中調査に活かせないか?
海洋の藻場で植食動物である巻貝類やウニ類の移動を制限できれば、海藻群落への影響をコントロールできるはずである。動物の付着基盤への接着過程をコーティング剤で阻害できないかというアイデアが、フッ素や硝子のコーティング剤を扱う有限会社サトウ化成佐藤さんへの今回の訪問のきっかけとなった。佐藤さんはテトラポッドに使っている硝子コーティング剤を紹介。汚れや傷防止のために自動車などに使われている素材だ。使用例や予算感など、研究者にとって初めて聞くことばかり。「植食動物の移動制限だけでなく、海洋観測道具のサビ防止など、いろいろな場面で使えそうですね。」と青木さんにも好感触だ。この件は海の中での使用感や耐性など持ち帰って実験をすることになった。
打ち合わせ中の青木さん(左)と佐藤さん(右)
海洋観測現場での可能性を感じる
この日は佐藤さんのウレタンの抜き加工の工場も見学し、同素材を使った製品や、加工の仕方などを見せてもらった。工場には緩衝材、ゴムパッキンなど様々な用途の製品が並ぶ。素材の硬さ、厚さ、スポンジの粗さなどで性質や用途が変わることを実感した青木さんも、「これはどうすればつくっていただけるのですか?」と興味津津。「イメージ図面をいただければ型を起こしますよ」。ウレタンにかぎらず、同じ型で紙やプラスチックなどでつくれるかたちもあって、加工工場の可能性を実感した。潜水調査中の位置マーカーとして、ウレタンフロートを使うアイデアも出て、端材の中から適切な硬さや粗さを持ったものをいくつか持ち帰って試してみることになった。「海洋観測では、海水でサビないよう道具をメンテナンスしたり、動きの制限される海底での作業を行いやすいように道具を工夫したりする必要があります。コーティングの用途の幅広さを知ることができ、ウレタン1つとっても様々な種類があること、いろいろに加工できることを知って、海洋観測の現場での活用の可能性を実感しました。町工場のみなさんのものづくりの経験値が非常に頼りになりますね」
様々なウレタン素材
青木さんの初めての町工場訪問は、大きな収獲があったようだ。今後、青木さんと佐藤さんでチームを組んだ海洋観測道具の新たなアイデアグッズの誕生に、期待が持てる。
今回の訪問先:有限会社サトウ化成
ウレタン(スポンジ)緩衝材、各種パッケージ、両面テープシール、ゴムの打抜き加工及び梱包加工、フッ素コート加工を手がける墨田区の町工場。従業員4名で、佐藤憲司さんは同社の2代目代表取締役。
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