Tech Plan グランプリ キックオフイベント

1月26日(日)、Tech Planグランプリのキックオフイベントを開催しました。

22チームが集まった本イベントではテクノロジーベンチャーを育成したい、というTech Plan グランプリの目指すビジョンの共有や、参加チームの自己紹介が行われました。具体的なものがすでにあるところから、これから連携先を見つけたい人たちまで、年齢は浪人生の18歳から、大手企業を辞めて自分で町工場をつくったり、発明をしている大人まで、バラエテイーに富んだ参加者が集まりました。みんなに共通するのは面白いものづくりで世界を変えたい、ということ。

ここから書類選考を経て、3月16日に本選会を行い、自分たちのアイデアを戦わせます。

 

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SNAKEI BIZに紹介されました
産経ベンチャー:活性化のカギは「ものづくり」にあり!

アカデミア、企業、政治家、あらゆる人を繋げ研究を進める 筑波大学 裏出良博教授

「カタログで売っている装置や試薬を集めて研究するだけなら誰にでもできるやろ。測れるから測る、ではつまらん。新しいものをなんとか測る方法を作る。それでこそオリジナルの研究ができるんや」。2013年9月に筑波大学に移籍したばかりの裏出良博氏は、力強い関西弁でそう話した。奈良県生まれ、京都で学位を取り、大阪で研究を続けた生粋の関西人は、持ち前の明るさと交渉力で、自らの「やりたい」に町工場やソフトウェア企業を巻き込み、睡眠学研究を推進してきた。

 

博士取得後、睡眠学の入り口に立つ

裏出氏が主たる研究対象としているのは、様々な生理活性を持つプロスタグランジン(PG)の中でも、中枢神経系で睡眠調節に働くPGD2だ。この分子を中心として、睡眠と覚醒の分子メカニズムの解明、神経回路の解析、また睡眠機能を改善する食品の開発などを行っている。「僕が睡眠の研究を始めたのはね、博士課程を終える頃に主任教授の先生が急に研究テーマを鞍替えしたんよ」。当時、師事していたのは早石修教授。オキシゲナーゼやポリADPリボースなどの発見を行った酵素学の権威だ。その早石教授が1983年、63歳の時に京都大学の定年と同時に新技術開発事業団(現・科学技術振興機構)のERATOプロジェクトを立ち上げ、酵素学から睡眠学へとテーマ替えをした。その時のことを、裏出氏は笑いながら話した。「僕についてくれば研究費に困ることはないが、今の仕事を続けるなら知らん。さぁ、どうする?ってね」。

 

研究者のプライドと、職人のプライド

当プロジェクトの研究員として研究を行いながら、1987年、大阪市制100周年の記念事業としての大阪バイオサイエンス研究所の設立に参加した裏出氏は、その後、アメリカのロシュ分子生物学研究所、日本チバガイキー国際科学研究所の研究員を勤め、再び大阪バイオサイエンス研究所に戻ってきた。そして、睡眠研究に本格的に参入し、マウスの脳波測定技術を得るため、米国、フランスやスイスなどの多くのラボを訪問した。脳波による睡眠の測定は、1924年Hans Bergerによる脳波の発見、1937年Alfred Loomisらによるヒトの覚醒睡眠脳波の記録から始まる歴史のある技術だ。しかし、対象がマウスになると、小指の先ほどのサイズの脳、30g程度しかない体重が枷となり、誰にでもできる技術ではなかったのだ。訪問先で見たのは、スイス製時計の中のネジ、フランス製プラモデル飛行機のプロペラの軸などを寄せ集めて作ったマウスの行動に負担をかけないオリジナルの測定装置。

「そんなものを日本で集めたら大変やろ。だから東大阪や京都の町工場に同じものを作って欲しいって頼み込んだんや」。儲かる仕事ではないかもしれない。でも、世界一の精度を誇る日本のものづくり技術で作った装置なら、世界一の研究ができる。そう説得し、国内で部品を揃えていった。「彼らもプライドを持ってるからね。自分が作ったものがちゃんと動き続けてるか、定期点検もしてくれたよ。おかげさまで、20年以上使い続けられてます」。その東大阪や京都の職人のものづくり精神と同じように、研究も失敗のリスクを恐れず、今までに無いものを作るのが一番楽しい。そのために、挑戦し続ける雰囲気をいかに作るかが大事だと語った。

 

良い物を作り、市場を開拓する

その後、PGD2による睡眠調節系に関わる研究を続けていた裏出氏は、各国の睡眠研究でトップを走るラボごとに脳波の解析プログラムが異なり、データの統一性がなく共有が図られていないことに気づいた。しかも当時はデジタル脳波計が普及しておらず、ロール紙への記録が主流だった。「マウスの脳波を2日取ると、長さが1.8kmにもなったよ」。

このままでは研究がはかどらない。しかし、研究所の内部でデジタル脳波計を開発する力などない。「そしたら、また外の誰かに頼むしかないでしょ」。日本で最初に脳波計を作製したNECメディカルシステムズにDVDデジタル記録装置の試作機を借り、バブルが弾けて同部門がGE社に売却された後にはキッセイコムテックを紹介してもらい、裏出氏自身も睡眠覚醒現象を捉えるための解析方法を考案。取得データサイズを減らしながら効率的な解析を行うソフトウェアSleepSignを開発した。このソフトは、徐々に世界の市場に広まり、ラボ同士でデータを用いたコミュニケーションが図れるようになっていった。「こっちは、儲けさせてあげられたかな」。裏出氏はニヤリと笑う。

 

人を巻き込み、社会を巻き込む

そうして、自分の専門とは異なる人と関わり続けながら研究をしていると、やりたいことがたくさん出てくる。小型のヒト用脳波計を開発し、その利用法を考えるうち、「眠りを良くすることを謳う漢方薬はたくさんあるのに、効果を定量化できていない」と気づいた。そこで農研機構のイノベーション創出基礎的研究推進事業で「睡眠改善機能食品の開発」課題に取り組み、脳波解析システムを企業へ開放。結果、データに裏付けられた「快眠食」で数多くの特許を出願中である。今や9人にひとりが常用しているとされる化学合成された睡眠薬は、すべて海外で開発されたもの。薬に頼らず、食事やサービスなどで快適な睡眠が得られるようになるのではないかと考えている。

また、コンゴからの留学生だったBruno Kilunga Kubata氏が、アフリカ睡眠病の原因であるトリパノソーマがPGD2を作ることを発見。現在はBiosciences eastern and central AfricaのCEOを務めるというKubata氏らと共に、ウズベキスタンの薬草成分がトリパノソーマ感染症の治療薬になることを見出した。「高崎健康福祉大学にいる昔の同僚の合成化学の教授に“できる?”って聞いたら、安く作れたのよ。これ、どうにかしてアフリカに配るしくみを作れんかなぁ」。

 

夢を追い、互いに手を組み未来を拓く

やるとなったら、とことんやる。でも、自分ひとりでできることは少ない。だから人に夢を語り、仲間を作る。「アカデミアでも、企業でも、政治家でもええ。みんな、もっと交流しないと。理系、文系なんてナンセンスや。あらゆる人を繋げていくよ」。裏出氏は、そうやって20年以上も進んできた。多様な人材のチームを維持すれば、それを心地よいと感じて、さらに多様な人が集まってくる。そこから、新しい何かが生まれ続けるのだ。「うちのチームにはサラブレッドはいない。でも、ルール無しの場外乱闘なら、どこにも負けんよ」。

 

裏出 良博(うらで よしひろ)氏
1982年 京都大学大学院 医学研究科 博士課程 単位取得退学
1983年 医学博士
1988年-1990年 米国ロシュ分子生物学研究所 客員研究員
1990年-1993年 日本チバガイキー国際科学研究所 主任研究員
1993年-1998年 大阪バイオサイエンス研究所 分子行動生物学部門 副部長
1998年より 大阪バイオサイエンス研究所 分子行動生物学部門 部長
2013年より 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 教授

 

産学連携推進マガジン【Bio-GARAGE】より転載

Bio−GARAGE

TOKYO油田 2017

天ぷら油で車が走る

町工場と住宅が混在する墨田区で、ひときわ目立つワゴン車がある。車体にはかわいらしいイラストとともに大きく描かれた「油回収します」の文字。染谷さんが社長を務める株式会社ユーズの天ぷら油回収ワゴンだ。株式会社ユーズでは、家庭や飲食店の使い終わった食用油を回収し、リサイクルを行っている。特に注目を集めるのが、回収した使用済み食用油をリサイクルして作り出すVDF(Vegetable Diesel Fuel)燃料だ。100Lの使用済み食用油から95LのVDFを作ることができ、硫黄酸化物も出さないクリーンエネルギーとなる。「現在、全国の家庭と飲食店で排出される使用済み食用油は年間40万トン。そのうちで家庭から排出される分は約半分。それらはほとんどが廃棄されているんです。そのすべてをVDFにできたら、20万台のディーゼル車を走らせることができる。私たちは、2017年までに東京のすべての使用済み食用油をリサイクルする仕組みを作ります」。まっすぐな瞳で染谷さんは語る。

世界で初めて事業化した廃食油リサイクル

染谷さんがVDFを開発したのは今から20年前。油のリサイクル工場である染谷商店を経営していた両親のもとで働いていた当時、アメリカで大豆からバイオ燃料を開発したというニュースを聞いた。「大豆油でできるなら、使い終わった天ぷら油でも燃料が作れるはず」。そう思った染谷さんは廃食油に含まれる不純物を取り除く触媒と、その触媒を使った廃食油のリサイクル装置の開発に着手。1年間の試行錯誤の末、1993年に世界で初めて使用済み食用油からバイオディーゼル燃料を精製することに成功した。その後、使用済み食用油の回収業務を担う株式会社ユーズを立ち上げ、リサイクルを行う染谷商店との分業により事業を展開している。

理念の発信がリサイクルを加速する

「VDFはリサイクルの1つ。天ぷら油を活用できる製品はたくさんある。重要なことは、個人の家に眠っている資源を回収するネットワークをどうやって広げていくかです」。技術だけではリサイクルは進まない。だからこそ染谷さんは、2017年という具体的な期限を示し、東京に油田をつくるという大きな目標を掲げている。その目標の実現に向け、現在、首都圏約200か所のカフェ、薬局、スポーツクラブなどで家庭の使用済み食用油の「回収ステーション」を設置している。

さらに、地域の人々から提供された使用済み食用油をVDF化し、それをイルミネーションで使用する発電機に入れ、エネルギーの地産地消のお手伝いをすることや、イトーヨーカドーなどショッピングセンターとの連携など、様々な取り組みを行っている。「子どもって、天ぷら油で車が動くことよりも、天ぷら油から石けんができることのほうがびっくりするんですよ。今の子どもにとっては、石けんも身近なものではなくなっているからなんでしょうね」。染谷さんは、時代とともに変わりゆく変化を感じながら、社会を変えるチャレンジを今も続けている。

(文・長谷川 和宏)

プロフィール

1968年生まれ。1991年に環境問題の解決を目指し、油のリサイクル業を行う染谷商店に就職。その後企画営業部を経て、1997年に独立し、株式会社ユーズを設立。

 

 

石けんへの想いが起こす、人と人との化学反応

東京都墨田区は、かつて、花王の前身である長瀬商店や資生堂、ライオンやミヨシ石鹸などが軒を連ね、石けんの製造が盛んに行われた「石けんの町」である。その町で、1908年に創業、現在まで石けんづくりを見つめ続けてきた会社がある。

最終消費財をつくることへのこだわり

「石けんは、混合や練合ではなく化学反応でつくる製品。独特の製法が大きな付加価値を生み出す」と語るのは、創業105年を迎えた老舗石けん・化粧品製造会社、松山油脂を率いる松山剛己さんだ。石けんは時代の変化の中で、単に「身体を洗うもの」という機能のみならず、使う人の好みや気分に合った感性豊かな特徴が求められるようになった。石けんは油脂と苛性ソーダのシンプルな化学反応でつくられるが、水溶性、洗浄力、泡の量や泡立ち方の違いなど、石けんの使い心地は脂肪酸の種類で決まる。松山油脂では大きな釜に原料を仕込み、その反応を人の目で確かめながらつくる、昔ながらの「釜焚き製法」によって天然原料から素材の持つ有用性を生かした石けんをつくっている。「お客様が毎日使うものだからこそ、安心安全で、環境にもやさしく、長く使い続けていただけるものを」。最終消費財である、ディリープロダクトをつくる松山さんのこだわりだ。

石けんづくりへの想い

今は家業を継いで石けんづくりに邁進する松山さんだが、学生時代は「何かで起業したい」と考えていたという。大学を卒業後、「製品をお客様に提案する仕事」に興味を持ち博報堂へ就職。その後、三菱商事へ転職するが、父親から松山油脂を廃業する意向であることを聞き、後を継ごうと決意、石けんづくりに向きあうことになる。「何十億円と大きな金額が動く仕事だとしても、それが目に見える形を持ち、自分自身で実感できるものでなければワクワクしない」。製品の作り手が、その使い手となることができる石けんづくりに、やりがいを発見する。やがて松山さんは、父親から会社を譲り受ける。当時下請け事業のみだった松山油脂に自社ブランドを立ち上げ、石けん以外にも、ボディソープやヘアケア製品からスキンケア製品までカテゴリーを広げていった。当時、苦しい経営を強いられていた松山油脂は、成長企業へと躍進していく。

製品に心を動かされた人が集まる

松山油脂では、大々的に求人を行わない。「メーカーは、製品そのもので勝負すべきだと考えています。美辞を並べることより、製品が会社を語ってくれます。その製品に感動して一緒に働きたいと手を挙げてくれる、そんな人と働きたい」。松山さんの言葉通り、同社で働くのは、皆、製品に心を動かされて集まってきた人たちだ。その中には理系の研究をしてきた21名もいる。研究開発部、富士河口湖工場には研究農園を有し、原料にこだわる同社では、理系の研究を生かせる仕事もある。しかし、専門分野だけではなく、生産管理や工場勤務など、製品ができ上がるまでのプロセスに向きあうこともある。「市場にある何千何万という製品の中で、お客様にお選びいただく一つになるためには、原料、品質はもちろん、パッケージデザインから販促物のメッセージまで、細部にわたってお客様の視点で吟味しないといけない」。お客様、会社の仲間のために、飽きることなく考え続け、そして、行動できる人だけが、松山油脂でモノづくりをすることができるのだ。お客様へ最高の価値を提供するために、妥協しない仕事がしたいと思う人が自然と集まる。真摯なモノづくりの姿勢が、販売店やお客様を引き寄せ、また、新たな仲間をも引き寄せている。(文・前田 里美)

プロフィール

1964年、東京都生まれ。株式会社博報堂、三菱商事株式会社を経て、1994年、家業である松山油脂合名会社(当時)に入社。2000年、同社代表取締役社長に就任。他、株式会社マークスアンドウェブ、株式会社北麓草水社の代表取締役社長も務める。

 

工学的な視点がバイオ研究のハードルを超える可能性

再生医療が生命科学研究の大きな注目テーマになって久しい。生命科学的なアプローチでは、人間の体を構成する細胞を利用して狙った臓器や皮膚などの組織を作り出す。一方で、工学的なアプローチで体のパーツを作り出すという研究がかたちになり始めている。遠いようで近い生命科学と工学の一端を紹介したい。

生体組織を編んで作る

血管、皮膚、臓器はいずれも細胞がある程度の秩序を持って並び、3次元的な構造をとることで形成されている。その上で、その集まりが有機的に機能することで、血液を運んだり、外的な刺激から身体を守ったりといった様々な働きを生み出している。生体内では、細胞どうしの結合やコラーゲンやケラチンなどの細胞外の構造体(細胞外マトリックス)との結合(図1)によって立体組織を形成している。再生医療の現場では、いかにこの3次元構造を作るかが一つのハードルになっている。工学的なアプローチで臨む研究者らは、細胞をブロックのように扱って、思った通りの形に配置する。編み物を編むように3次元的な構造を作る1)といった、生命科学の研究者からはなかなか出てこない発想で実現しつつある。生物・医学的なアプローチでは、例えば腎臓などで脱細胞化という処理を施して中の細胞をなくし、残った臓器の被膜に細胞を定着させて移植用の臓器を作るという取り組みがある。同じ機能を果たせるのであれば、前者の方が安定して、また他から臓器をとってくることなく作ることができる点で応用の幅を広げることができる。

図1細胞外マトリックスに細胞が結合している状態のイメージ図

3Dプリンタの新しい道

最近では3Dプリンタを使って3次元組織を作り出すという試みも進んでいる。例えば、オックスフォード大学の研究チームは3Dプリンタを使って生体組織様の物体を作り出したと米Science誌で発表している2)。また、ヘリオット・ワット大学の研究チームが、3Dプリンタを使ってES細胞を印刷することに成功したと英Biofabrication誌で報告している3)。細胞の印刷技術は適切なマトリックスと混ぜて立体構造がとれるようにすることで、立体的な生体組織を作り上げる分野で活躍できる可能性を持つ。

生命科学と工学の交流

国内では、例えば生物・医学から、物理、化学、材料、工学、人文社会の研究者が集まって「細胞を創る」研究会が立ち上がり、分野を超えた技術の交わりが始まっている。すでに今年で第6回の年次研究会を迎えており、これからの展開がさらに期待される。生体は様々な高分子が絶妙なバランスででき上がっている。システムの要素としては機械などに通ずる所もあるだろう。また、生命科学の研究者が今の視点では超えられないハードルを工学からのアプローチで超えられる可能性も持つ。生命科学研究が分子レベルの研究が盛んだったところから、その成果を踏まえてマクロレベルの組織を形成するという分野でも活気づく今、工学研究者とのコラボレーションがさらに求められている。

  • 1HiroakiOnoe,et.,al.Metre-longCell-ladenMicrofibresExhibitTissueMorphologiesandFunctions.NatureMaterials,vol.12,584–590,2013
  • 2GabrielVillar,et.,al.ATissue-LikePrintedMaterial.Science.vol.340.48-52.2013 3AlanFaulkner-Jones,et.,al.Developmentofavalve-basedcellprinterfortheformationofhumanembryonicstemcellspheroidaggregates.Biofabrication.vol.5.015013.2013

h_t著者:高橋宏之(たかはしひろゆき)

リバネス研究戦略開発事業部部長。同知識創業研究センターセンター長。専門は分子生物学および生化学。博士(理学)。バイオに限らず最新の研究動向や技術をウォッチして研究者と企業をつないでいます。研究者とコラボして民間に導出できる次の技術をインキュベーション中。

宇宙は人類の世界観を拡張する astropreneur 代表 石亀一郎さん

国際宇宙ステーションに民間のスペースX社の宇宙船ファルコンが世界ではじめてドッキングしたのが2012年10月。今、アメリカを中心にヴァージン・ギャラクティック社、ビゲロー・エアロスペース社など多くのベンチャー企業が生まれ実績を出し始めている。一方で日本はまだ宇宙=国の事業。一般の人が手を出せない世界である。そんな中、もっと民間ベースで自由に宇宙を利用できる時代を作ろうと、自ら団体を立ち上げた若者がいる。

「私」という存在の相対化

astropreneur 代表 石亀一郎さん

astropreneur 代表 石亀一郎さん

小さい頃から「自分とは何者か?」という哲学的なことに興味を持っていた石亀さん。卒業文集で「存在とは」というタイトルで文章を書く少年であった。そんな彼が、宇宙に興味を持ち始めたのが小学3年生。火星大接近の時に天体望遠鏡を買ってもらい必死に観察しました。そして、高校1年の時に知ったアポロ13のコマンダーであるジム・ローウェルの言葉が人生の方向性を決めた。「我々は月を知ることで、実は地球について知った」。宇宙に行くことで人類は地球の、そしてさらには己の価値を理解することができる。そのためには、全ての人類が宇宙に行くチャンスを作らなければならない。そんな思いをもって大学に進学した石亀さんは、友人や宇宙関係者に想いを伝え、astro+antreprener(宇宙+起業家)=astroprener(アストロプレナー)という団体を立ち上げた。

宇宙はビジネスの宝庫

アストロプレナーは宇宙ビジネスを日本で展開するためのサポート団体として、宇宙ビジネスの現状をレポートするサイト「astropreneur.jp」を運営している。例えば、ビゲロー・エアロスペース社が米連邦航空局に月の採掘権を申請したニュースでは、月利用についての法整備について紹介している。現在月ではレアアースなど希少資源が存在していると示唆されている一方で、宇宙法でその独占は禁止されている。いよいよ月の利用について考える時代が到来しているのだ。そのほかにもサイトには、日本中のどこよりも早く、充実した宇宙ビジネスのトピックスがあふれている。

アストロプレナー

URL:http://astropreneur.jp/

町工場の力を、あなたの創造力に 福山大学生命工学部山口泰典教授・株式会社浜野製作所石川北斗さん

前号で掲載した「日常の何気ない作業をちょっと楽にするオーダーメイド器具が欲しい─そんな要望有りませんか?」という記事に興味を持ち、オーダーメイドの実験トレイの相談をくれたのが福山大学の山口先生。実際にトレイを製作した浜野製作所の石川さんとともに、実験機器に対する要望を伺った。

石川:そもそもどういった経緯でオリジナルトレイを作りたいと思ったのですか?

山口:私は以前から細胞を扱う研究をしています。日々、大量の細胞をインキュベーターという機器の中で培養しているんですが、その機器に入れるためのトレイが重い上にたわんでしまう。片手でインキュベーターの扉を開けて、もう一方の手で培養シャーレを載せたトレイを出し入れするんですが、重いと腕が震えてサンプルがこぼれそうになってしまう。これを改善できないかと思って相談をしたんです。

石川:たわみの原因は自重にあったので、材質を軽量なアルミ合金に変えるだけでたわまないようにできました。元々のトレイの材質である銅を含有したステンレスは、抗菌性という特徴を持つ反面、非常に重い材質です。今回使用したアルミ合金に抗菌性を持たせる処理を施すことも可能でしたが、コストが上がってしまうので処理を行わないことをご提案しました。

山口:汚れが気になったときの滅菌処理なら大学でも簡単にできますからね。コストや必要性を相談しながら作れるのはありがたいです。

発注から共同開発へ

石川:ちなみに地元の企業に相談されたりはしなかったんですか?

山口:実は同じような相談を地元の企業にしたことがあるんですが、なかなか対応してくれなかったんです。広島県福山市はあまり町工場も多くないので、相談をする相手を探すのにも苦労します。しかしながら遠方の東京や大阪の町工場とつながる機会がなかったので、今回のご縁はとてもありがたいです。過去には、地場の企業数社と連携し、新しい実験装置の開発に挑戦したこともありました。経産省から2年間で約4000万円の予算をもらい、温水方式の定量PCRという実験ができる装置を作ったんです。装置自体は良いものができたのですが、市場調査ができるようなメンバーがいなかったため、市場規模や利益が見えない中で実際に製造・販売するリスクを取ってくれる企業が出てこず今のところ商品化できていない状態です。

石川:弊社でも複数の町工場とともに東京海洋大学・芝浦工業大学・JAMSTECと連携した深海探査船の開発をやっています。今回のトレイのようなちょっとしたものづくりから、一緒にアイデアを形にしていくものづくりまで、ぜひ今後も気軽にご相談ください。

山口先生からのご相談

インタビューの中で、山口先生から受け取った追加のご要望について紹介します。

shaシャーレを曇らないようにできないか?

培養したシャーレをインキュベーターから出すと、インキュベーター内外の温度差によりシャーレのフタの内側に水滴がついて曇ってしまう。位相差顕微鏡で観察を行う際に、精密な光学系が曇りで乱され解像度が悪くなって見えにくくなるのでなんとかできないだろうか。

saibo細胞を簡単に剥がす装置は作れないか?

培養した細胞を使って実験する際に、シャーレから培養細胞を剥す必要がある。経験的に、酵素処理と併用して培養シャーレを温めながら細かい振動を与えて揺らすと培養細胞にストレスがかかる酵素処理時間を短縮して剥がせるので、それを簡単にできる装置を作れないだろうか。

incuインキュベーターのドアを半自動で閉めたい

インキュベーターのドアが、ゆっくりと閉めないと確実にしまってくれない。冷蔵庫のドアのように弱い力でも一定の位置まで閉まると自動的に最後まで閉まるようにできないだろうか。

 

 

上記の要望は、現在、浜野製作所と対策を検討中!

ENG GARAGE では、研究者の何気ない不満を解消します。 お気軽にご相談ください。

町工場の力を、あなたの創造力に「ENG GARAGE」

E-mail:[email protected]

世界一の試作環境は日本にある WHILL株式会社・墨田加工株式会社

素早く資金を集め、素早くアイデアを製品化する新しいかたちの製造業が注目されている。その日本におけるフロントランナーが、次世代車椅子「WHILL」の開発を行うWHILL株式会社だ。現在急ピッチで試作機開発を行う同社のCDO(最高開発責任者)である内藤氏、メカニカルエンジニアである榊原氏と、同社が外装製造のパートナーに選んだ墨田加工株式会社の社長である鈴木氏が、試作開発における町工場とのかかわり方について語る。

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求めるものはスピード&クオリティ

内藤:WHILLは2012年5月に設立し、本年7月にはアメリカで100万ドルの資金調達に成功しました。現在は12月からアメリカで行うユーザーテストに向けて試作機の開発を急ピッチで進めています。試作を進める中で、プラスチックの外装を製造できる町工場を探していて、知り合いから墨田加工さんを紹介してもらいました。

鈴木:墨田加工は、プラスチックの成形や切削などの加工技術を総合的に提供する墨田区の町工場です。ロットや精度など、お客様のニーズに応じた成形方法を提案し、小ロットから大量生産まで対応しています。WHILLさんのように試作段階での依頼も数多く来ますね。

内藤:何社か見積もりを取った中で墨田加工さんにお願いをした一番の理由はスピードとクオリティです。元々僕と榊原は家電メーカーのエンジニアだったので、乗り物を開発した経験もなければ小ロットの外装を作ったこともありません。そんな中で、加工方法や材料選定、設計などこちら側のニーズと意図を聞きながら、ものづくりの面で引っ張っていってくれる技術的な情報の質とスピードの速さが決め手でした。

榊原:実際の試作段階でもこちらの持ち込んだ外装のCGデザインについて、形状的に無理のある部分を指摘してくれて、できるだけイメージが変わらない代案を出してくれています。相手によっては「できない」と断られるケースも多いのですが、墨田加工さんはディスカッションしながら一緒に作り上げていってくれるのがありがたいです。

左から WHILL の榊 原さん、内藤さん、墨 田加工の鈴木さん

左から WHILL の榊 原さん、内藤さん、墨 田加工の鈴木さん

試作段階で“任せる”ことの重要性

内藤:試作機作りも最初は自分たちにできないこと以外、全部自前でやっていたんです。大手メーカー時代にやっていたのは量販品開発だったなので、ノウハウが社内に蓄積しているし、完全な新規開発ではないのでスケジュールも読めるんです。でも、ベンチャーのものづくりはゼロからの開発。1個ずつのパーツを慎重に考えても、自由度が高い分、思ってなかったところで失敗します。だからこそ、短い期間でトライ&エラーを繰り返す必要がある。1か月でVer17まで設計を繰り返したりしていました。

榊原:そんなスピード感なので、自分たちでやったほうが早いと思っていたんです。3Dプリンタやレーザーカッターなど、最近では簡単な加工手段がありますから。でも、ちょっとした材料のカットに1、2時間とか、とにかく時間がかかる。さらにできあがった後もねじのゆるみや溶接など、自分たちがやったところが壊れていく。3日に1度修理するペースでしたね。結局、ものづくりの部分はプロに任せたほうが早いしクオリティも高いです。

鈴木:そうですね。お客さんの中には大型機械をうちの工場に持ち込んで、その場でトライ&エラーを繰り返しながら一気に開発を進める方もいます。相手の要望をどうやって実現するか。相手がイメージしていない問題点を解決できるかが腕の見せ所です。

町工場の魅力を世界に知らしめる

取材中でも外装修正に 関するディスカッションが はじまる

取材中でも外装修正に 関するディスカッションが はじまる

鈴木:ところでWHILLさんはアメリカでの販売に向けて動いていますがなぜ開発の場もアメリカではなく、日本を選んだんですか?

内藤:試作スピードが抜群に早いからです。日本は物流が発達しているので、必要なものを注文すると1日で届く。海外で注文したら3日から5日くらいかかってしまいます。

榊原:あとは“粋”な日本人特有の気質ですね。ただのビジネスとしての受発注の関係を超えて一緒にいいものを作ってくれる。夜中の23時に工場を動かしてくれたり、こちらの要求の倍のクオリティを出してくれたり。たとえば、1mm~0.5mmくらいの寸法精度で加工をお願いしたら0.1mmの精度にしてくれたことがあります。

鈴木:実際にものを作るときには、パーツ1個ずつの誤差が組み立ての際に上乗せされていくので、1つ1つのずれがコンマ数mm程度でも、最終的に2~3mmの誤差になることもよくあります。だから必要な場所には寸法精度の高いものを提供します。そうしないとよいものが作れませんから。

内藤:そういうのがとてもありがたいんです。開発において重要な要素はQCD(Quality、Cost、Delivery)と言われています。日本は物価も人件費も高いイメージがありますが、実際には部品も人材も品質を考えれば割安ですし、狭い国なので物流も完璧です。このことを考えると、日本は試作大国になれるポテンシャルを持っているはずです。まだまだ僕らは、世の中に製品を販売していないので説得力がありませんが、来年にはアメリカでの販売を予定しています。WHILLがアメリカの公道を走り、地域に根ざすという結果を出すことで、日本で試作をすることのクオリティとスピードの高さを世界にアピールしていきたいですね。

WHILL株式会社

墨田加工株式会社

 

“探す”ことが楽しくなる検索インターフェイス

青山学院大学理工学部経営システム工学科梶山朋子助教

例えば、デスクトップの壁紙を検索したいとき、「かっこいい」「楽しげな」など画像をイメージから探したいけど、入力する検索ワードに困ることがある。頭の中にあるぼんやりとした色や雰囲気を、上手に探し出すためにはどう したらよいだろうか。

感覚的な検索手法「ファセット検索」

植物図鑑 システム

植物図鑑 システム

目的が明確な場合に使うのは、キーワード検索やカテゴリ検索だろう。これらに対し近年登場したのが、ファセット検索だ。複数の検索の切り口(ファセット)を組み合わせることで情報を閲覧できるため、探したい情報のイメージがぼんやりとしている場合に効果を発揮する。通販サイト『Amazon』がその典型例。一般的な図書館や本屋の検索システムでは、著者名や出版年月などのキーワードを入力する方法しかないが、Amazonではキーワードやカテゴリで情報を絞り込んだ後、このファセット検索が提供される。例えば、ユーザー評価、文庫本か雑誌等のフォーマット、配送オプション、価格などから検索条件として利用したい切り口を選ぶだけでコンテンツを絞り込める。

ヒントは星座早見表

アプリ検索アプリ 『Wonder Search』

アプリ検索アプリ 『Wonder Search』

このファセット検索をより感覚的に使えるようにしたのが、梶山さん。膨大な情報の中から自分の好みに近いものを直観的に検索できるインターフェイスを、星座早見表から思いついた。日時や方角が書かれたリングを重ね合わせると上空の星座が表示されるように、色や雰囲気等の検索軸を配置したリングを回転させると、リング内に検索結果がリアルタイムに現れる。このインターフェイスを植物データに適用した植物図鑑システムでは、503種類の植物に対し、花の色や葉の形などの7つの切り口を用意したことで、検索結果から未知の植物特徴を視覚的に捉えることができる。リング内の植物画像をドラッグし中心に再配置すれば、その特徴に合う検索条件へ自動的に修正される。 「感覚的に調べられるだけではなく、“探す”行為自体がとても楽しく感じられるようになります。」と、梶山さんは話す。講談社およびデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムと共同開発したアプリ検索アプ『WonderSearch』にも導入されている。 この技術は教育分野だけでなく、インテリアやファッション分野など、画像をイメージで探す際に活躍する技術になるだろう。今後は画像を探すだけでなく、レビューなどのテキストから抽出した感情を色彩化することで、コンテンツ利用者の印象を表現する画像(読後感を表現した書籍表紙画像など)の自動生成にも挑戦したいという。情報が溢れすぎている世の中で、いまの日本の若者にはこうした感覚的な検索インターフェイスは意外とウケるかもしれない。

労働をアシストする「マッスルスーツ」

東京理科大学工学部第一部機械工学科小林宏教授

近年、福祉介護用ロボットが数多く開発される中で、労働補助という切り口で研究開発を進める東京理科大学の小林先生。まだまだ研究開発段階のロボットが多い中、先生が開発した腰補助用のアシストスーツはすでに複数企業での導入も決まり、実用化はもう目の前だ。

福祉ではなく労働補助

厚生労働省の統計によると、4日以上の休業を要する腰痛は2011年に4,822件発生している。これは職業性疾病のうち6割を占める労働災害だ。業種別では社会福祉施設が約25%程度を占め、他の業種では運輸交通業、小売業が多い(1)(2)。さらに近年、電子商品取引市場が急拡大し、1998年では約650億円程度だった市場規模は,2010年には約130倍の8兆4,590億円となっている(3)。このような状況の中で、物流業においては、商品サイクルが早く多種にわたるため物流の機械化ができず、作業者の負担は増大している。物流業においては、作業効率とコストが直結するため、福祉分野以上に問題意識が強い。2001年、小林先生が初めて身体機能拡張を目的としたロボットを開発した際、問い合わせをしてきたのは物流を担う企業からだった。

(1)厚生労働省,“平成21年度国民医療費の概況”,厚生労働省大臣官房統計情報部,
(2)厚生労働省,“平成20年患者調査の概況“,厚生労働省大臣官房統計情報部,
(3)経済産業省,“平成23年度我が国情報経済社会における基盤整備 (電子商品取引に関する市場調査)”,経済産業省商務情報政策局,

人工筋肉を使用した動作補助ウェア

小林先生が開発した 「マッスルスーツ」

小林先生が開発した 「マッスルスーツ」

マッスルスーツは着用型の筋力補助装置だ。日常生活での利用を考え、柔軟、軽量という特性を持つ人工筋肉をアクチュエータとして採用し、簡単に脱着できる構造となっている。特徴は、アクチュエータとして空気圧式のMcKibben型人工筋肉を採用していること、上半身の補助を対象としていること、そして着用者がマッスルスーツの動きに合わせて動くことにより筋力補助効果を高めているという3点だ。人工筋肉で肩や肘、腰の関節を補助することで、重量物を積み下ろしする際の負担を軽減する。

実証に勝るデータなし

マッスルスーツを装着し たデモ。繰り返し作業を 行う際の負担を軽減する。

マッスルスーツを装着し たデモ。繰り返し作業を 行う際の負担を軽減する。

「マッスルスーツは形状、機能、1つ1つがすべてノウハウなんです。例えば、腿につけるパット1つとっても、フレームとの接合部分を真ん中より外側に配置していたり、パットの角に丸みを持たせているのは、実際の使用感からフィードバックを得て改良した成果なんです」と小林先生は語る。マッスルスーツの部品数は300程度。それに対して100くらいの改良が加えられ、今の製品ができあがっている。「産業用ロボットであれば、コスト、効率、正確さを求めればいい。でも人間が使用するものの場合、個人の感覚的な部分を考慮しなければいけない。だからいろいろな人に試してもらうことが重要なんです」。マッスルスーツは来年秋ごろより販売を開始する予定。研究段階からユーザー目線での開発を行うこのスタイルが、いち早く実用化への道を拓くのだ。