TOKYO油田 2017
天ぷら油で車が走る
町工場と住宅が混在する墨田区で、ひときわ目立つワゴン車がある。車体にはかわいらしいイラストとともに大きく描かれた「油回収します」の文字。染谷さんが社長を務める株式会社ユーズの天ぷら油回収ワゴンだ。株式会社ユーズでは、家庭や飲食店の使い終わった食用油を回収し、リサイクルを行っている。特に注目を集めるのが、回収した使用済み食用油をリサイクルして作り出すVDF(Vegetable Diesel Fuel)燃料だ。100Lの使用済み食用油から95LのVDFを作ることができ、硫黄酸化物も出さないクリーンエネルギーとなる。「現在、全国の家庭と飲食店で排出される使用済み食用油は年間40万トン。そのうちで家庭から排出される分は約半分。それらはほとんどが廃棄されているんです。そのすべてをVDFにできたら、20万台のディーゼル車を走らせることができる。私たちは、2017年までに東京のすべての使用済み食用油をリサイクルする仕組みを作ります」。まっすぐな瞳で染谷さんは語る。
世界で初めて事業化した廃食油リサイクル
染谷さんがVDFを開発したのは今から20年前。油のリサイクル工場である染谷商店を経営していた両親のもとで働いていた当時、アメリカで大豆からバイオ燃料を開発したというニュースを聞いた。「大豆油でできるなら、使い終わった天ぷら油でも燃料が作れるはず」。そう思った染谷さんは廃食油に含まれる不純物を取り除く触媒と、その触媒を使った廃食油のリサイクル装置の開発に着手。1年間の試行錯誤の末、1993年に世界で初めて使用済み食用油からバイオディーゼル燃料を精製することに成功した。その後、使用済み食用油の回収業務を担う株式会社ユーズを立ち上げ、リサイクルを行う染谷商店との分業により事業を展開している。
理念の発信がリサイクルを加速する
「VDFはリサイクルの1つ。天ぷら油を活用できる製品はたくさんある。重要なことは、個人の家に眠っている資源を回収するネットワークをどうやって広げていくかです」。技術だけではリサイクルは進まない。だからこそ染谷さんは、2017年という具体的な期限を示し、東京に油田をつくるという大きな目標を掲げている。その目標の実現に向け、現在、首都圏約200か所のカフェ、薬局、スポーツクラブなどで家庭の使用済み食用油の「回収ステーション」を設置している。
さらに、地域の人々から提供された使用済み食用油をVDF化し、それをイルミネーションで使用する発電機に入れ、エネルギーの地産地消のお手伝いをすることや、イトーヨーカドーなどショッピングセンターとの連携など、様々な取り組みを行っている。「子どもって、天ぷら油で車が動くことよりも、天ぷら油から石けんができることのほうがびっくりするんですよ。今の子どもにとっては、石けんも身近なものではなくなっているからなんでしょうね」。染谷さんは、時代とともに変わりゆく変化を感じながら、社会を変えるチャレンジを今も続けている。
(文・長谷川 和宏)
プロフィール
1968年生まれ。1991年に環境問題の解決を目指し、油のリサイクル業を行う染谷商店に就職。その後企画営業部を経て、1997年に独立し、株式会社ユーズを設立。