工学的な視点がバイオ研究のハードルを超える可能性

再生医療が生命科学研究の大きな注目テーマになって久しい。生命科学的なアプローチでは、人間の体を構成する細胞を利用して狙った臓器や皮膚などの組織を作り出す。一方で、工学的なアプローチで体のパーツを作り出すという研究がかたちになり始めている。遠いようで近い生命科学と工学の一端を紹介したい。

生体組織を編んで作る

血管、皮膚、臓器はいずれも細胞がある程度の秩序を持って並び、3次元的な構造をとることで形成されている。その上で、その集まりが有機的に機能することで、血液を運んだり、外的な刺激から身体を守ったりといった様々な働きを生み出している。生体内では、細胞どうしの結合やコラーゲンやケラチンなどの細胞外の構造体(細胞外マトリックス)との結合(図1)によって立体組織を形成している。再生医療の現場では、いかにこの3次元構造を作るかが一つのハードルになっている。工学的なアプローチで臨む研究者らは、細胞をブロックのように扱って、思った通りの形に配置する。編み物を編むように3次元的な構造を作る1)といった、生命科学の研究者からはなかなか出てこない発想で実現しつつある。生物・医学的なアプローチでは、例えば腎臓などで脱細胞化という処理を施して中の細胞をなくし、残った臓器の被膜に細胞を定着させて移植用の臓器を作るという取り組みがある。同じ機能を果たせるのであれば、前者の方が安定して、また他から臓器をとってくることなく作ることができる点で応用の幅を広げることができる。

図1細胞外マトリックスに細胞が結合している状態のイメージ図

3Dプリンタの新しい道

最近では3Dプリンタを使って3次元組織を作り出すという試みも進んでいる。例えば、オックスフォード大学の研究チームは3Dプリンタを使って生体組織様の物体を作り出したと米Science誌で発表している2)。また、ヘリオット・ワット大学の研究チームが、3Dプリンタを使ってES細胞を印刷することに成功したと英Biofabrication誌で報告している3)。細胞の印刷技術は適切なマトリックスと混ぜて立体構造がとれるようにすることで、立体的な生体組織を作り上げる分野で活躍できる可能性を持つ。

生命科学と工学の交流

国内では、例えば生物・医学から、物理、化学、材料、工学、人文社会の研究者が集まって「細胞を創る」研究会が立ち上がり、分野を超えた技術の交わりが始まっている。すでに今年で第6回の年次研究会を迎えており、これからの展開がさらに期待される。生体は様々な高分子が絶妙なバランスででき上がっている。システムの要素としては機械などに通ずる所もあるだろう。また、生命科学の研究者が今の視点では超えられないハードルを工学からのアプローチで超えられる可能性も持つ。生命科学研究が分子レベルの研究が盛んだったところから、その成果を踏まえてマクロレベルの組織を形成するという分野でも活気づく今、工学研究者とのコラボレーションがさらに求められている。

  • 1HiroakiOnoe,et.,al.Metre-longCell-ladenMicrofibresExhibitTissueMorphologiesandFunctions.NatureMaterials,vol.12,584–590,2013
  • 2GabrielVillar,et.,al.ATissue-LikePrintedMaterial.Science.vol.340.48-52.2013 3AlanFaulkner-Jones,et.,al.Developmentofavalve-basedcellprinterfortheformationofhumanembryonicstemcellspheroidaggregates.Biofabrication.vol.5.015013.2013

h_t著者:高橋宏之(たかはしひろゆき)

リバネス研究戦略開発事業部部長。同知識創業研究センターセンター長。専門は分子生物学および生化学。博士(理学)。バイオに限らず最新の研究動向や技術をウォッチして研究者と企業をつないでいます。研究者とコラボして民間に導出できる次の技術をインキュベーション中。

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