2013年版透明マント 南洋理工大学 Dr. Zheng Baile

漫画や映画など、人間の想像の世界に何度も出現してきた「透明マント」。この夢の機能を持つデバイスが2013年にカリフォルニアで行われた「TED2013」でお披露目された。登壇者は、シンガポールの南洋理工大学のZheng Baile博士。MITが選ぶ35歳以下のイノベーター「35 INNOVATOR UNDER 35」にも選ばれた実力者だ。

透明になるメカニズム

透明な四角い箱が蛍光色の筒の前に置かれた瞬間、筒が消えた。透明な箱を通して観察されるはずの筒は全く見えず、背景の壁だけが見えたのだ。この不思議な箱の素材は石灰岩や大理石の主成分の炭酸カルシウムの結晶、カルサイト。

カルサイトが特殊な光特性を持つことは広く知られている。高校の授業でカルサイトを通してモノを見る実験をした人も多いのではないだろうか?この場合観察対象は二重に見える。複屈折と言われるこの現象は、光が偏向の状態により2つの光線に分解されることで説明することができる。Zheng教授はこのような性質を持つカルサイトを2つ組み合わせることで、光が物質を迂回して進むように設計した。

産業応用を狙う

透明マントと題されたテクノロジーは今まで何度となく登場してきた。しかし、素材にレーザーを用いて、マイクロメートル、もしくはナノメートルサイズの複雑な微細加工を施して光を対象から逃すように設計したものがほとんどであった。そのため生産コストが高く、産業上の応用が困難であるという課題を抱えていた。しかし、今回発表されたものは非常に安価な材料を単純に組み合わせたデバイスであることから、産業上の応用やスケールアップが大きく期待されている。使い古された物質がエンジニアのアイデア一つで一躍注目の物質に豹変した。

乗り越えるべき困難

このデバイスが「透明マント」として機能する条件はまだ限られている。レーザーオイルと言われる特殊な油に囲まれた空間に置くことが必要な点だ。光の屈折を特殊な条件でコントロールすることでのみ、この現象が起きる。見方を変えれば、この条件を再現できるような光学的なトリックを思いつけば、人間は光をコントロールする道具を一つ得たことになる。
開発者のZheng博士は光を対象から逃す技術だけでなく、音や熱をも対象から逃すような技術の開発を進めている。あらゆる電磁気の波をコントロールするデバイスが出現するのももうすぐかもしれない。

透明マントにより見えなくなったピンク色の紙を丸めた筒

透明マントにより見えなくなったピンク色の紙を丸めた筒

実験で使われた2種類のカルサイト。屈折率をもとに形状を計算して制作している。

実験で使われた2種類のカルサイト。屈折率をもとに形状を計算して制作している。

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